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      美酒紀行2026_Day1〜Day12

      ーチリ・ボリビア編 2026ー

      2026年の幕開けとともに計画していた「チリ・ボリビア旅」が、ついに始まりました。
      日本からはるか地球の裏側まで、約30時間をかけた移動。
      その先には新しい出会いと、まだ見ぬお酒の物語が待っています。

      Day1:出発 ── 地球の裏側へ、30時間の旅路

      今回はエア・カナダを利用し、バンクーバー、トロントを経由してチリへ向かいます。南米は4回目ですが、チリまで預け荷物の出し入れが一切なかったのは初めての経験でした。
      機内の空調も快適で、いつもは寒さに震える思いをするのに、今回はめずらしくぐっすり眠れました。機内食も美味しく、旅の出だしとして上々のスタートです。


      Day2:トロントにて ── 氷点下14度と、偶然の縁

      トランジットのトロント。外気温は−14度。
      空港の外に出た瞬間、凍るような冷気が全身を包みます。
      そんな中、空港のラウンジで元JICAパラグアイの女性と言葉を交わしました。
      聞けば同じサンティアゴへ向かうということで、「現地で飲みましょう」と旅の序盤から思いがけないご縁をいただきました。
      トロントから約10時間のフライトを経て、現地時間2月5日の13時前、チリのサンティアゴへ到着しました。凍てつく寒さからの暖かさ、入国審査官が片言の日本語で声をかけてくれたことが、旅の疲れをほぐしてくれました。

      夜 ── 「チリピスコ」との最初の一杯

      ↑写真左からCapel cristianさん、岡山の酪農家 三浦さん、HISの落合さん、京都のBar Alchemist(バー アルケミスト)の朴さん。

      HISの落合さんと合流し、4つ星の「Hotel Gran Palace」へチェックインしました。
      ジムとプール付きで、日本円にして一泊約6,500円(朝食付き)。素晴らしい環境です。
      早速コキンボ州のCapel(チリ最大級のピスコメーカー)の方と打ち合わせを行いました。
      チリ最大級のピスコメーカーとの時間は、この旅の目的のひとつでもあります。
      夜9時半を過ぎても外は明るく、活気ある南米で乾杯する「チリピスコ」。グラスに満ちる華やかな香りに、長旅の疲れがすっと溶けて、元気が湧いてくる感覚がありました。

       

      Day3:サンティアゴ ── 再会と、街の味わい

      ゆったりと朝食をとってから、チリ観光局の方々と会議を行いました。
      来年のチリ旅行への協力について快諾をいただき、静かな手応えを感じた朝です。
      会議の途中、大阪・関西万博チリパビリオンのメンバーが顔を出してくれ、感激でした。
      Bar Alchemistの朴さんの満面の笑顔にパワーをもらい、会議は素晴らしい成果を収めて終わりました。

      南米一と噂されるラーメンと、アンデスの眺め


      午後は街へ出ました。まず向かったのは、南米一と噂される「ラーメン金太郎」です。


      白湯と豚骨、塩レモンのサーモン炙り乗せ、チャーシュー丼などを食べました。一杯約2,000円、コーヒー約1,000円と決して安くはありませんが、その味は絶品でとても美味しかったです。
      腹ごしらえを終えたあと、サンティアゴ旧市街の中心に立つ「サンタルシアの丘」を登りました。

      16世紀にスペイン人がこの丘を拠点にサンティアゴの街を築いたとされる、「街の原点」ともいえる場所です。石造りの階段を登り切ると、サンティアゴの街並みの向こうに真夏にもかかわらず白く輝く南米最高峰、6,962mの高さを誇るアコンカグアが雪を頂いてそびえていました。

      魚市場のウニと、ピスコのカクテル


      夕方は魚市場へ行きました。
      注文のやりとりに行き違いがあったのか、気づけば山盛りのウニが一人一皿ずつ運ばれてきていました。パクチーと玉ねぎ、醤油でいただくウニの濃厚さは格別で、値段は約4,000円。


      市場ならではの贅沢な時間でした。ただ、中国製のワサビの辛さにだけは、お気を付けを。日本の感覚を大きく超えています。
      ホテルでひと息ついたあとは、BenFiddichの鹿山さんに紹介してもらった「Backroom Bar」へ。チリピスコのカクテルを静かに味わいました。
      締めはふたたびラーメン金太郎へ。帰り道、チリの大聖堂を見ながら、文化に触れることができ、心もお腹も満たされ、充実した一日を振り返りました。


      Day 4|チリ最終日 ── バルパライソの港と、海の恵み


      2月7日、チリ最終日は港町「バルパライソ」へ向かいました。サンティアゴから車で約2時間。カラフルな街並みと豊かな芸術文化で知られ、歴史地区はユネスコ世界文化遺産にも登録されています。
      ホテルで好きな野菜スープをゆっくりいただいてから、男4人で海へ行きました。


      見渡す限りの太平洋を前に、水平線の緩やかな曲線を目にすると、「ああ...地球は丸いんだな」と改めて実感しました。
      港のすぐ背後に急な丘が連なり、家々が積み重なるように建っています。細い路地、石の階段、古いケーブルカー。古くから貿易港として栄えてきたこの街は、海と坂と人の営みが折り重なって、他では味わえない独特の空気をまとっています。


      カラフルな建物や壁一面のストリートアート、展望スポットからの港の景色...街全体がアートギャラリーのような雰囲気でした。


      港町の食文化に触れる


      ランチは港町らしい料理を存分に堪能しました。レモンで魚介を締めたセビーチェ、アワビ、貝のチーズ乗せ、そして魚介スープ「カルディージョ・デ・コンゴリオ」も有名です。素材そのものの旨味を引き出した、素朴で力強い味わいです。海の恵みをそのまま皿に盛ったような、バルパライソならではの食文化に深く頷かされました。

      午後は波打ち際へ。本格的に泳ぐというより、波に足をつけながら海辺の時間をゆったりと楽しむ人々の姿が印象的でした。その穏やかさが、この街の気質を表しているようでした。

      夜ご飯をマックで済ませ、ホテルへ戻ったのは夜9時を過ぎた頃。翌朝は2時半起床と身体を休める間もなく、明日はハードな1日なりそうです。

       

      Day 5|ボリビアへ ── 標高4,000mの洗礼


      午前3時半、ホテルを出発。飛行機でボリビアのラパスへ向かいます。
      世界一標高の高い空港として知られる「エルアルト国際空港」に降り立った瞬間、空気の質が変わりました。少し早足で歩いただけで息が上がります。標高4,000mを超えるこの地での鉄則はただひとつ、「とにかくゆっくりと行動すること」です。

      魔女市場と、伝統の味


      ホテルに荷物を預け、坂道を一歩一歩踏みしめながらカフェへ向かいました。カフェで出会った子どもたちに誘われ、20秒ほどサッカーをしただけで息が絶え絶えになりました。
      その後は不思議な品々が並ぶ「魔女市場」を散策しました。


      ランチにはボリビアの伝統的なピーナッツスープ「ソパデマニ」と、干し桃の飲み物「モコチンチ」をいただきました。優しい甘さが、薄い空気の中で疲れた体にじんわりと染み渡ります。この地が育むお酒と、どんな出会いが待っているのか。期待が静かに膨らみます。

      Day 6|ラパス ── 計画変更と、500kmの決断

      ボリビアのラパス。標高3,600m超の世界では、ただ歩くだけでも息が切れます。

      そんな中、日本で降り続いた大雪の影響が、地球の裏側にまで届きました。日本からのメンバーの到着が遅れ、予定していたフライトがすべて白紙になるというトラブルが発生。
      ラパスからウユニ塩湖までの飛行機が取れないとなれば、残る選択肢はひとつです。車で約500km、およそ8時間の陸路移動を決断しました。
      今回のトラブルに見舞われた、弊社公認アンバサダーのひとり「BAR BLUE」の豊川さんにとっては、初めてのボリビアです。
      HISの落合さんは先発メンバーと合流し、一足先に飛行機でウユニ塩湖へ向かいました。私は翌日の長距離ドライブに備えることにしました。
      そこで手にしたのは、ボリビアが誇るビール「パセーニャ」です。

      世界的なコンクールで幾度も金賞を受賞してきた実力派で、高地で醸造されることによるキレと、じわりと広がる深い味わいが身体に染み渡ります。
      今回のツアー参加者の一人で、日本、チリ、ボリビアと一緒に旅した三浦さんと静かに乾杯し、眠りにつきました。

      ガイドの落合さん

      私のボリビア訪問は今回で4度目ですが、過去3回とも同行してくださっています。
      落合さんはただのガイドではありません。ボリビアでその名を知らない人はいないほど有名な、日本人フォルクローレ・グループ「ワイラ・ハポナンデス」のメンバーです。


      https://www.instagram.com/wayrajaponandes/

      繊細かつ力強いケーナの音色を持ち味に、ボリビアの伝統的なリズムを日本人らしい感性で奏でられています。
      長年この地に暮らし、音楽を通じて現地文化と深く関わってきた方だからこそ、観光地の案内にとどまらず、人々の暮らしや歴史、文化の背景まで丁寧に伝えてくださいます。
      落合さんがいることで、旅の景色がいつも立体的に見えてきます。

      また、落合さんのボリビアでの友人たちが、今回のボリビアツアーの各種イベントに華を添えてくださいました。
      私たちの心に、いつまでも残る感動を与えてくださいました。

      Day 7|オルーロへ ── 雲の影と、高地の食卓


      ラパスのホテルで朝食をとりました。美味しい完熟のマンゴー、メロン、スイカ、パパイヤでしっかりとエネルギーを補い、豊川さんと合流してハイヤーで出発しました。標高3,800mの高地をひたすら12時間走る旅の始まりです。

      向かうは南米最大のカーニバルで知られる町「オルロ」。標高約3,800mの高地を走る車窓には、リャマや牛が草を食み、雲に近い絶景が広がります。
      雲に近いぶん、大地に雲の影が落ちる様子も見られます。こんな景色は、ここでしか出会えません。


      ラパスでは夕日の沈み方も独特です。日の入り時間が短く「一気に暗くなる」と感じやすいです。南緯約16度、赤道に近いこの地では太陽の軌道が日本より立っているため、日の入りが斜めではなく真下に落ちるように見えます。空気が乾燥し透明度が高く、太陽の輪郭と色の変化がくっきりと浮かび上がります。地理と自然条件が重なって生まれる、ラパスならではの夕景です。

      オルーロにて ── カーニバルの町を抜けて


      伝統文化と宗教行事で有名な都市「オルーロ」はアンデス高地に位置する鉱山の町です。
      世界的に有名な「オルーロのカーニバル」はユネスコ無形文化遺産に登録されているボリビア最大級のお祭りで、南米3大カーニバルの一つです。 
      悪魔の仮面をつけた「ディアブラーダ(悪魔の踊り)」など先住民文化とカトリックが融合した壮大なパレードをいつか生で観たいです。

      高地では気圧と酸素の影響で食欲が自然と落ち着くため、ラパスでは1日2食が一般的です。ランチとディナーを旅の途中でとり、再びウユニ塩湖へ向けて出発。ここからさらに約300km、6時間の道のりです。
      オルーロからウユニ塩湖へのルートは悪路が続きます。長時間の揺れ、体力の消耗、距離以上に身体に堪えるコンディション。それでも、その先にある景色のことを思って、前向きな気持ちで乗り切ります。

      Day 8|ウユニ塩湖 ── 宇宙に浮く、白い大地へ


      ついに旅の大きな目的地の一つであるボリビアのウユニ塩湖は、私にとって初めての場所です。
      ラパスからの長距離ドライブを終え、ホテルに辿り着いたのは深夜1時を過ぎた頃でした。
      宿泊したのは、床も壁も家具も、すべて塩のブロックで作られた「ルナ・サラダ」です。

      一歩足を踏み入れると、岩塩がもたらすひんやりと澄んだ空気が全身を包みます。館内は地元の織物で丁寧に彩られ、とても可愛らしい印象も受け、神秘的なエネルギーを感じながら過ごせるホテルでした。しかし、ゆっくり眠る時間はありません。わずかに仮眠をとり、午前3時半に星空ツアーへと出発しました。

      宇宙に浮く星空と過酷な洗礼


      待っていたのは、言葉を失うほどの満天の星空でした。
      薄く水を張った塩原が空をそのまま映し出し、上下の区別がつかない鏡張りの世界で、自分がまるで宇宙に浮いているような感覚です。星空ツアーからそのまま朝日ツアーへと続き、一夜のうちにこれほどの光景に出会えたことは、運が良かったとしか言いようがありません。
      しかしその代償は小さくありませんでした。削り続けた睡眠、容赦なく体力を奪う標高、そして長距離ドライブの疲労と車酔いが重なり、胃腸はとうとう悲鳴を上げていました。久しぶりに、自分の限界を感じた時間でした。

      世界最大の塩原「ウユニ塩湖」


      ボリビアのポトシ県に位置するウユニ塩湖は、標高約3,600m超、富士山の頂上とほぼ同じ高さにあります。南北約100km、東西約250km。その面積は新潟県とほぼ同等です。
      かつてアンデス山脈の隆起によって取り残された巨大な湖が、長い年月をかけて蒸発してできた世界最大の塩原です。雨期の12月から3月にかけて表面に薄く水が張ると、空を完璧に映し出す「天空の鏡」が現れます。
      見渡す限り続く真っ白な大地は、あらゆる雑音を吸い込んでしまうような静けさをまとっています。薄く、冷たく、それでいて澄み渡った空気が、心の奥まで静かに満たしていきます。

      ウユニ塩湖を後にし、標高約2,400mのカマルゴへ。標高が下がるにつれ、少しずつ身体が戻ってくる感覚がありました。

      Day 9|カマルゴ ── シンガニの原点に触れる


      私はシンガニの聖地「タリハ」を駆け抜けている途中、思いがけない知らせが届きました。

      在ボリビア日本国大使館より、「天皇誕生日のレセプション」への招待状です。「魚住がボリビアにいるのなら、ぜひ招待しよう」というお言葉に、胸が熱くなりました。ITコンサルからお酒のインポーターへと歩んできた道のりを、認めていただけたような誇らしい気持ちになっています。詳しくは後ほどお伝えします。

      San Pedro蒸留所 ── 1550年からの記憶


      ウユニ塩湖を後にし、渓谷の町シンガニの伝統が色濃く残る「カマルゴ」へ向かいました。日本でもおなじみのブランド「San Pedro(サン ペドロ)」の蒸留所です。気づけば4時間が過ぎていました。
      1550年から続く歴史を持つ、ボリビアで最も伝統ある蒸留所のひとつです。シンガニの魅力をひと言で表すなら「エレガントで多層的な香り」。カマルゴの標高は約2,400mという土地の厳しさが、マスカット・オブ・アレキサンドリアの糖度と香りを極限まで凝縮させます。
      口に含んだ瞬間に広がる華やかな果実味。後味にはカマルゴの土壌を思わせる微かなスパイシーさと、驚くほど長く澄んだ余韻。「伝統」という言葉が似合う、気品あふれる味わいは「カマルゴ」の誇りそのものです。

      Leyenda蒸留所 ── 古の蒸留器「ファルカ」との対話


      続いて訪れたのは、2026年5月ごろ日本上陸予定の「Leyenda(レジェンダ)蒸留所」です。
      San Pedroのエレガントさとは対照的に、ここのシンガニが持つのは「マスカット本来の力強さと、大地を感じる野生味」が魅力です。伝統的な製法へのこだわりが凝縮感のあるリッチなボディを生み出します。ひと口飲むだけで、カマルゴの厳しい自然と太陽の恵みが口いっぱいに広がります。新しいブランドでありながら、どこか懐かしく、深いところで安心させてくれる一杯です。
      この蒸留所でひときわ心を奪われたのが、1980年まで現役で使われていたという古の蒸留器「ファルカ」でした。

      歴史の積み重ねがシンガニ独特のアロマの礎になっているのだと改めて感じました。
      カマルゴの地で何十年、何百年と受け継がれてきた蒸留の歴史の重みに触れるたびに、私たちが日本へ届けているのは単なるお酒ではなく、作り手たちの「誇り」そのものなのだと思います。

      Day 10|タリハ市内 ── シンガニの王道へ


      カマルゴの伝統に触れたあと、ボリビアで生産されるシンガニの90%以上を担うタリハ市内へと向かいました。最大手メーカーから新進気鋭のブランドまでが集まる、まさにシンガニの中心地です。

      ラビウダ蒸留所 ── 「未亡人」という名の気品


      タリハ市内でまず訪れたのは「ラビウダ」の蒸留所です。弊社も輸入を始めたばかりの、いま最も注目しているブランドのひとつです。


      到着するなり温かく迎えていただき、足湯やプール、トランポリンと、メンバーそれぞれが思い思いにくつろぐ時間をいただきました。
      伝統的な製法を礎にしながらも、最新の技術によって生まれるクリアな味わいが印象的です。まさに次世代のシンガニを象徴するブランド「未亡人」という名を持つシンガニは、強さと美しさが共存するような深い味わいです。

      コマドレスの木曜日 ── タリハの絆に触れる夜


      ホテルにチェックインした後、タリハの伝統祭「コマドレスの木曜日(フエベス・デ・コマドレス)」に参加しました。
      街を歩けば、伝統衣装を纏い、花や果物で飾られたカゴを手にした女性たちであふれています。


      この日は親友に「もし私に何かあったら、この子を頼む」と、子どもの名づけ親(コマドレス)になってもらうよう依頼する大切な日です。贈られたカゴを受け取ることは、その重い責任と生涯の友情を引き受けるという誓いを意味します。
      その祝祭の輪に招き入れていただき、陽気な音楽に合わせてともにダンスを楽しみました。言葉が通じなくても、笑顔とステップが自然と距離を縮めていく。タリハという街が長い時間をかけて育んできた「絆」の文化を、肌で感じた夜でした。

      ロスパラレス蒸留所 ── アミーゴと呼ばれた瞬間


      次に訪れたのは、シンガニ最高峰の名門「ロスパラレス」の蒸留所です。3代目として伝統と革新を担う経営責任者、「フランツ」さん。
      彼と顔を合わせた瞬間、「アミーゴ」と言って迎え入れてくれました。その一言に、思わず目頭が熱くなりました。
      私たちを単なるビジネスパートナーとしてではなく、遠くから来た友人として迎え、完成したばかりのゲストハウスへ案内してくれたその真心は、言葉よりも雄弁でした。
      フランツさんのシンガニへの惜しみない愛情、飽くなき追求心、そして仕事への哲学は超一級品です。今のシンガニのクオリティが高いのは、彼がいるからだと確信しています。

      お酒は人と国を繋ぐものだと、よく言われます。タリハで過ごしたこの時間は、その言葉の意味を改めて教えてくれました。


      世界最高峰を支える、蒸留の科学


      ロスパラレスの蒸留所に一歩足を踏み入れると、そこには伝統的なイメージを静かに覆す「精密な科学の世界」が広がっていました。


      シンガニ協会の会長でもあるフランツさんに、じっくりと話を伺いました。
      シンガニは標高1,600m以上の地域で生産されることが必須条件です。2005年以降、協会は生産基準を近代化し、シンガニの定義を明確に整備してきました。その中でロスパラレスは、最初に基準を満たした生産者です。
      さらに2016年以降は、品質向上のためにメタノール含有量の低減を重点課題として取り組み、4つの製法基準を整備することでより高いクオリティを実現してきました。自ら基準を作り、誰よりも早くそれを超えてみせる。その姿勢こそが、ロスパラレスが世界最高峰の評価を受け続ける理由のひとつです。
      こうした積み重ねの集大成として生まれたのが、あの「アニバーサリーリザーブ」です。

      --------------------

      <4つの製法基準> 
      1. 原料の厳格化(100%マスカット・オブ・アレキサンドリア) 
      標高1,600m以上の地域で栽培された、最高品質のマスカットのみを使用する。

      2. 発酵プロセスの厳密管理 
      アロマを最大限に引き出し、雑味(後のメタノール成分の元となるもの)を抑えるための低温かつ徹底した温度管理下での発酵。

      3. 高度な蒸留技術(不純物の徹底排除) 
      蒸留の最初(ヘッド)と最後(テール)をより厳格にカットし、最もピュアで香りの良い「ハート」部分のみを抽出する技術。これによりメタノール数値を下げ、クリアな味わいを実現する。

      4. 最低8カ月の熟成期間の遵守 
      蒸留後の液体を落ち着かせ、香りをなじませるための熟成期間を厳格に守る。

      --------------------

      高品質のマスカット・オブ・アレキサンドリアのアロマを1%でも逃さない、徹底した温度管理。最新鋭の蒸留器が並ぶ光景は圧巻のひと言です。 
      フランツさんの「今のクオリティに満足しない」という飽くなき追求心を身に染みて感じる、シンガニの工程をぜひご覧ください。↓ 
       
      -------------------- 
       
      STEP 1. ブドウ「マスカット・オブ・アレキサンドリア」を入れる

      STEP 2. 圧搾
      この過程で機械と手作業を入れているのはロスパラレスのみ。メタノールを極限まで減らすため、種、皮、ヘタ等を手作業で抜き取っている。
      ※果物の皮や種の周囲には、メタノール発生の原因となるペクチンという多糖類が豊富に含まれております。

      STEP 3. 温度を15度から10度に下げる 
      温度を下げることで、マスカット特有のエグみを抑えられる。その後に使用する「特別な酵母」は低温で最も活発に働くタイプのため、発酵を適切に進めるには仕込み温度を下げる必要がある。

      STEP 4. 発酵 
      7~10日間発酵。ベースワインづくりに一番力を入れている。

      STEP 5. 蒸留 
      ハイブリッド式の蒸留器を使用。これはミドルカットの調整がしやすく、ガスの排出量も少ない構造になっている。さらに冷却水100のうち96%をリサイクルできる仕組みで、コンデンサーで再度冷却して循環利用している。蒸留後はコラソン(心臓部)だけを使用。

      STEP 6. 熟成 
      彼らは「樽熟成は本来のシンガニから外れる」という考えを持っている。彼らは「樽熟成は本来のシンガニから外れる」という考えを持っている。熟成期間は最低1年。ヘレンシアは10年熟成。これから3年熟成のクラシコも製造しようとしているようだ。

      STEP 7. 加水 
      イタリア製のタンクを特注で発注しており容量は5,000L。シンガニの度数に合わせて仕込み量を調整しているが、最も良い品質を得られるのが5,000Lタンクだそう。これより大きすぎても品質が安定しないため、このサイズを採用している。 
      タンク内部には複数のプレートが設置されており、その角度を調整しながらゆっくりと加水していく仕組み。使用する水は生産地の地下水を軟水に近づけるよう濾過し、カルシウム含有量は8%に抑えている。 
      シンガニは精油分が多く、加水の仕方によっては香りや味わいが飛んでしまう。そのため加水工程は非常に重要。蒸留後の度数75~83度のシンガニを、最終的に40度まで丁寧に落としていく。

      STEP 8. ボトリング 
      よりクリアなボトルにするため、2回のフィルタリングを実施。1時間で3800本のボトリングができる。 

      --------------------

      「シンガニ」という名の誇りを守るため、自ら厳しい基準を課し、誰よりも早くそれを超えてみせたロスパラレス。 
      私たちが手にするシンガニの澄み渡るアロマの裏側には、作り手の探求心と1,600mの地で磨き上げられた緻密な技術が息づいていました。 


      カーサ レアル ── シンガニ界の礎


      ロスパラレスを後にし、次に向かったのはシンガニ界の最大手「カーサ レアル」が新たにオープンさせたレストランです。


      美食家として知られる3代目社長のこだわりがすみずみまで行き渡ったハイセンスな空間で、自然とお酒と料理が完璧に調和する心地よい時間を過ごしました。
      標高の高さと旅の疲れで消化機能が落ちていた私には、リブステーキのボリュームはなかなかの強敵でした。3分の1ほどをいただき、残りはメンバーへ。


      その後、「カーサ レアル」の蒸留所へと向かいました。ボリビア国内で流通するシンガニの約80%を製造する「カーサ レアル」は、家族経営から出発し、今ではタリハのサンタアナ地域、海抜1,850mの高地に広大なブドウ畑と近代的な工場を構えるシンガニ界の中心的存在です。
      3代目社長「ルイス・グラニエ氏」が掲げる「美食とシンガニの調和」という哲学は、レストランにもホスピタリティにも色濃く受け継がれています。単なる製造拠点ではなく、ボリビアの文化を象徴する場所です。


      「カーサ レアル」では、厳選されたオーク樽による「樽熟成」も行われています。マスカットが持つ華やかな香りに、樽由来の芳醇な深みが重なることで生まれるプレミアムな味わいを作り出します。ステンレスタンクと木樽、相反するふたつの技術を融合させることで、「カーサ レアル」がボリビアの誇りとして在り続ける理由だと感じました。
      今回、教わったカクテルは「バタフライピー入りフランボヤン」です。


      東南アジア原産のハーブで、バタフライピーはお湯や水に浸すと深い青色に染まり、レモンやライムの酸を加えると鮮やかな紫やピンクへと一瞬で変化します。アントシアニンが酸性に反応するためです。ノンカフェインでポリフェノールも豊富なため、健康志向の方にも合うハーブです。シンガニのマスカットの香りを主役に据えたまま、グラスの色だけを劇的に美しく変えてくれます。巣鴨の試飲会でお披露目できる日を楽しみにしています。


      ホアン ディアブロ ── 映画のようなご縁


      この日最後に訪れたのは、私にとってひときわ特別な蒸留所「ホアン ディアブロ」です。
      出会いのきっかけは昨年のことでした。現地の朝のニュース番組に出演した際、それをご覧になったオーナーが日本大使館を経由して私を探し出し、急きょ訪問が実現しました。偶然が重なり、必然のように繋がったご縁です。
      ここのシンガニはオーナーたちが「自分たちが美味しく飲むため」だけに作っているため、生産数が圧倒的に少ないのが特徴です。そしてこのシンガニが手に入るのは、現地のオーナーたちと、世界でただひとつ、日本だけです。


      この「幻のシンガニ」を日本向けに180本だけ確保することができました。2027年春頃ごろ入荷予定で、そのうちの100本を「Makuake」にて先行クラウドファンディングで募る予定です。
      世界でオーナーたちと日本だけにしか届かない特別な一滴。プロジェクトが始まりましたら、ぜひこの「奇跡の続き」を一緒に応援していただけると嬉しいです。


      「ホアン ディアブロ」を最後に、タリハでの旅は幕を閉じました。シンガニが繋いでくれた、この温かな縁を必ず日本へ届けようと、静かに心に誓いながら次なる目的地「ラパス」へと飛び立ちました。


      Day 12|ラパス最終日 ── 大地の料理と、夢の共演


      ボリビアツアーの最終日は、地元の人々の生活が凝縮された「ロドリゲス市場」から始まりました。隣接する魔女市場まで、徒歩で繋がるこのエリアは、土日ともなれば目を見張るほどの賑わいです。


      色とりどりの食材、行き交う人々の活気、高地特有の強い日差し。食べ物だけでなく、衣服や日用品、家電製品まで揃う路上の市場は、ラパス市民の暮らしをそのまま映し出しているようです。ここでしか出会えない珍しいスパイスも並んでいました。バーテンダーや料理人にとって、これほど豊かな「インスピレーションの源」はそうありません。
      魔女市場のカフェで朝のカフェオレをゆっくりと飲みながら、この街のエネルギーをもう少しだけ体に染み込ませました。

      パチャマンカ ── 2年越しの、大地の料理


      BenFiddichの鹿山氏が2年前から待ち望んでいた、ボリビアの伝統料理「パチャマンカ」の時間がやってきました。


      地面に掘った穴に熱した石を敷き詰め、食材を置いて土を被せ、大地の熱でじっくりと蒸し焼きにする豪快な料理です。
      しかし今回はHIS落合さんの友人の家特融のBBQの窯で蒸し焼きにしました。
      これも現地ではパチャマンカというそうです。しかしHISスタッフを含め17人分というボリュームに、上は焼けても下が半生というハプニングが発生しました。
      急きょ焼き直しという大格闘となりました。
      ようやく焼き上がった「クイ(モルモット)」は、塩サバのような旨みが凝縮された味わいでした。表面はとろりとしたゼラチン質、中はふっくらとした塩蒸しでしたが、その濃厚さは標高4,000mの胃腸には少々応えたようで、用心して箸を止めるメンバーもいました。
      羊はボリビア特有の味付けが絶妙で、食べ慣れた美味しさの中に新しい発見がありました。

      この宴に欠かせなかったのが万能ソース「ヤファ」です。
      完熟トマトと激辛唐辛子「ロコト」に、パクチーに似たボリビア固有のハーブ「キルキーニャ」を合わせたこのソースは、肉の脂をさわやかに流してくれる、まさに魔法の調味料でした。


      食後は少し歩いて、標高4,000mの地で行われている羊の放牧を見学しました。眼前に広がる6,000m級のアンデス山脈の威容は、言葉を探す前に胸に迫ってくるものがありました。


      バーテンダーたちの共演 ── 渋滞を越えた先で
      旅の締めくくりは、日本のトップバーテンダー3人とボリビアのバーテンダー1人による共演です。
      しかし会場へ向かう道がカーニバルによる大渋滞で全く動きません。2時間経っても3分の1しか進まない状況に、意を決して車を降り、ゴンドラを2回乗り継ぐルートを選択しました。
      1時間遅れで会場のバーに辿り着いた瞬間、バーテンダーたちの表情が切り替わりました。

      旅の疲れなど微塵も感じさせない、真剣な眼差しと静かな所作に、全員がその空気に引き込まれていきました。
      夜中の3時、すべてのプログラムを終えてボリビアツアーのメンバーは日本への帰路につきました。

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